carsensor EDGE.net

大人のためのプレミアカーライフ実現サイト  輸入車・外車のカーセンサーエッジ

EDGE.net > Road to Rally Mongolia

ahead femme 編集長・若林葉子のラリーへの道

それはパンドラの箱だった

トラブルは続く


準備段階での様々な出来事を経て、全行程8日間の本番も「そう簡単には行かないだろう」と予想はしていた。そして予想は予想では終わらなかった。
初日は完全にナビゲーションのミスで、何度も正しい道を見失い、迷いに迷ううちに日は暮れ、最後はとうとう漆黒の闇の中でスタックするはめになり、ゴールにたどり着いたのは翌朝6時。一睡もせずにスタートした2日目は、残り数十キロというところでクルマにトラブルが出てしまい、それ以降、スペシャルステージ(SS)の全てにはトライすることができなくなった。
考えてみれば、リタイアになってもおかしくない際どい状況ではあった。3日目以降はもう四駆では走れなくなり、デフオイルが漏れていたためオイルを足しながら走行し、タイヤのパンクを繰り返して、あともう一回パンクしていたら、多分、もうゴールまで自力で走ることはできなかった。
3日目からは毎日、「クルマは大丈夫か」「明日はどうするか」、それを考えるのが私と竹岡さんの日課になった。ここまで来たからにはできるだけレースに参加したい。でも無理してクルマが動かなくなり、クルマをルート上に置いて行くといった最悪の事態は何としても避けたい。
毎日話し合い、ベテランのエントラント に相談に乗ってもらい、主催者の力を借りて、次の日の動きを決定した。結果、パスすることになったSSもあったし、SSのルート上で泥にはまってオフィ シャルに牽引してもらう日もあった。また、1日に3度もタイヤをパンクさせて、通りすがりのモンゴル人一家にチューブの修理をしてもらう日もあった。7日目に、スペアタイヤも使い尽くし、ホイールだけになった右リアをひきずって、どろどろの沼地を時速10kmで走った日は、ゴールに着いたら、ドライバーも私も本当にボロボロ だった。「明日の最終日、タイヤどうする? もうスペアなかったよね」。でもチューブを修理すれば何とか走れるタイヤが、1本だけ残っていたのだった。
私たちの“完走”の実態は、そういうギリギリの完走だった。


地球の道を走った

こうやって書いてくると、まるで悪いことばかりだったように思われるかも知れないが、もちろん決してそうではない。「それにしても広いね。こんなところをクルマで走れるなんて幸せだね」。
これはラリー中、竹岡さんが何度となく口にした言葉である。ゴビ砂漠はとにかく広い。ものすごく広い。あまりにも広い。
晴れているはずなのに何だか暗いな。そう思って見ると、真っ白な雲が大地に影を落としている。雲が大地の風景をつくっているのだ。
ある日は、遠くにキラキラと太陽を反射する湖が見えて、「なんてきれいなの」。でも近づいて見ると、それもまた雲がつくっ た幻影だった。また、氷山のような、大きな岩のような雲が、いくつもぽっかりと空に浮かんで、それだけでもため息が出るくらい潔く美しいのに、その雲間から幾条もの太陽の光が大地に向かって射している。 雲や山や岩や動物。風景をかたちづくる一つ一つはくっきりとしているのに、全体として見ると、そこにはすべての色が溶け込んでいてどこまでも優しい。絵に例えるなら水彩画。色鉛筆を筆と水でぼかしていったら、モンゴルの草原や砂されき礫の色を表せるだろうか。アースカラーというのは、こういうことを言うのだと初めて心で理解した。

もちろんラリールートの中にあるのはそんな“広い”ところばかりではない。
様々な形の岩山がところ狭しと風景を刻む「モニュメントバレー」もあれば、まるで駱駝(らくだ)のコブをたくさん気ままに並べたようなお椀状の山が続くところもある。モニュメントバレーはその岩が面白くて、右を見たり左を見たり。駱駝のコブは落ちたら終わり。慎重に尾根をくねくねと渡っていく。3,000mの山を登っていくときなど、ふと左手を見ると、心臓が冷たくなるような断崖だったりして、つい無口になる。
そして長い時間一緒に走るうち、だんだん『FORESTER』と気持ちが通じていくようになるから不思議だ。未熟な2人を支え、最後まで本当に健気に頑張ってくれた。
昔、ラリーのことを何にも知らない頃、ラリーは道も何もない自然の中にずかずかと入っ ていくのだと思っていた。でも実際にモンゴルで走ったのは、大半が“道(ピスト)”だった。こんなところに? と思うような場所にも、どこに行っても“道”はあった。
帰国して、そんな話をしたら同僚の神尾が「それはもう地球の道だな」と言った。“地球の道”。なんてぴったりの言葉だろうか。私は“地球の道を走った”のだった。

文・若林葉子 写真・原田 淳

若林葉子

若林葉子

ahead femme 編集長
1971年大阪生まれ。立教大学文学部卒。OLを経てフリーランスに。2005年よりフリーマガジンaheadに携わり、2009年より現職。2005年7月~2006年9月まで、日経ビジネスOn Lineにて「もてるクルマ、もてないクルマ」を連載。2005年、桐島ローランド氏の2輪クロスカントリーラリー初挑戦“Beijing Ulanbaatar 2005”に同行取材し、以来、ラリーの魅力に憑かれ、今年いよいよ自身でもラリーレイドに参戦する。

Rally Mongolia 2009
8月2日(日)~11日(火)
─8etaps(ルートは未発表)

Recent Posts

利用規約 | お問い合わせ | プライバシーポリシー

page top

carsensor EDGE.net

輸入車・新車・中古車・ディーラー・販売店の情報満載。大人のためのプレミアカーライフ実現サイト カーセンサーエッジ

リクルート