初恋のクルマをついに手に入れた田中さん。
今は自分好みに仕上げるのを楽しんでいました
クルマ好きである本誌読者には、間違いなく子供の頃に憧れた一台があるはず。「大人になったら絶対このクルマに乗るんだ!」。クルマ図鑑などを見ながら胸をときめかせていたのに、いつの間にかその気持ちは薄れてしまい、当時の夢を忘れてしまっている人がほとんどだと思う。
「クルマは性能がよくてカッコいいデザインのものがどんどん出てきますからね。普通は新しいものに目が行きますよ。でも僕はなぜかこのクルマ以外にはまったく興味を持てなかったんです」
GC10型スカイライン。通称ハコスカ。60年代後半から70年代初頭にかけて日本のモータースポーツの歴史に数々の金字塔を打ち立てた名車は、いわゆる旧車ファンならずとも一目置く存在だ。 「ハコスカ乗りには歴史にこだわる人が多いけれど、僕はそういうことをまったく知らないんです。このクルマに憧れたのは近所にハコスカに乗っているおじさんがいて、僕もいつか乗りたいなって思っただけで…。だからミーティングやツーリングも苦手なんですよね。もともと社交的な性格ではないということもありますが(笑)」
大人になったらハコスカに乗ると心に決めた田中さんは、免許を取ってからもハコスカ以外には目もくれなかった。移動手段はSRやTZRなどのバイク。そして「そろそろクルマを持ってもいいだろう」と思いハコスカを探し始めたのが今から4年前、38歳の時だった。ところがここでひとつの試練が待ち受けていた。肝心のクルマがない…。 「僕がハコスカに憧れた最大の理由はリアのサーフィンライン。だからノーマルの2000GTを探したのですが、ほとんどのクルマはGT-R仕様にするためにサーフィンラインをカットしちゃっているんです。結局探すのに半年くらいかかってしまいました。このクルマは沼津のお店で発見。『僕は東京から新幹線を使ってクルマを見に行く。本当に程度は良好ですか。がっかりさせませんか?』ってしつこく確認しました。ようやく実車と対面したときは本当に感動しましたね」
購入後、ハコスカの整備に定評のある内田モーターワークスを主治医に指名。ここで車両状態のお墨付きをもらった。そして理想のハコスカにするためのチューニングを開始する。エンジンを280Zの2.8リットルに載せ換え(その後2.9リットルにボアアップ)、ミッションも5速に変更。さらにブレーキ、足回りとほぼすべての部分に手を加えた。 「だから古いクルマですが調子はいいですよ。最近シートもレカロに替えました。純正はビニール地なので夏場は暑くて仕方がなかったんです。あとフロントにタワーバーを入れたら驚くほど剛性が高まりました。パーツ集めはネットオークションをチェックするようにしています。探すと意外にあるんですよね。困っているのはウェザーストリップなどのゴム類。復刻版しか見つからなくて、これがひとつ5万円くらいするんですよ…」
街で振り返るのは圧倒的に50代の男性。手を振られることもあるという。目立ちすぎるので白への塗り替えも考えている
田中さんの理想のクルマ生活は、もう一台ノーマルの4ドアGT-Rを手に入れることだという。そしてそこにケンメリが加われば完璧だとか。
「もっとも相当お金持ちにならないと実現できない夢ですが(笑)。2000GTのいいところは昭和の心地よい香りを自然に振りまいてくれること。リアガラスに『冷房車』ってステッカーを貼って自慢しているんですから(笑)。かつてお父さんが乗っていたようなクルマなんですよね。GT-Rだとお父さんはイメージできないでしょう。僕は日常の足として現場にもこのクルマで通っています。すると50代のスタッフの方などがクルマの周りに集まってきてくれて盛り上がれたりする。『俺も昔乗っていたんだよ』って。万が一のことを考えて毎朝1時間余裕を持って出かけるなど面倒な部分もありますが、そんなことがすべて吹き飛ぶくらいの楽しみを味わっていますよ」
text / TAKAHASHI Mitsuru photos / OGATA Kazumi

