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DailyEDGE特別編 My EDGE Car

気になるあの人の“エッジ”な車拝見

マイエッジカー

プレイヤー、アレンジャーとマルチな活動を続ける後藤次利さんが乗るスパルタンな911 長年連れ添った“相棒”には、さまざまな思い出が詰まっているそうです

GOTO Tsugutoshi×PORSCHE 911

後藤次利 ベーシスト

40代で迎えた“クルマの青春”の生き証人

最後の空冷モデル、993シリーズの最強マシンである911カレラRSクラブスポーツ。ボディに溶接されたロールケージや鉄板むき出しの室内などからもわかるとおり、究極のスパルタンモデルだ。しかし後藤次利さんは平然と「居住性のいいクルマ」だという。 「鉄板のすぐ後ろはエンジンだからものすごくうるさくて走行中は会話をすることすら難しい。だから当然オーディオは付いていないし、エアコンもないから夏はうだるような暑さになる。長く乗り続けているからかもしれないが、そんな一般的に過酷と言われるような状況も僕にとっては苦じゃないですね」

後藤さんが初めてポルシェを手に入れたのは87年。以来20年以上も乗り継いでいる。並行してフェラーリやBMW、M・ベンツなどにも乗っていたが、どちらかを手放すときは迷わずポルシェを手元に残してきた。

「すごくいい楽器を手にすると自分の腕よりも楽器のほうが勝っているって感じることがある。そういう時は楽器に失礼のないように弾こうって思います。ポルシェも最初はカッコイイから買ったけれど、いざ走らせてみたら明らかにクルマのほうが勝っていた。山道でアクセルを踏むとクルマを抑え込めなくて対向車線に飛び出してしまうんです。これはしっかり練習しないといけないと思い、レースに参戦することにしました。ちょうど40歳を過ぎた頃だったので普通なら厄年だしおとなしくしていようと思うのかもしれない。でも僕は逆に何かに挑戦したくなったんです」
92年からの3シーズン、後藤さんは964でカレラカップにエントリーした。最初のレースは最下位一歩手前。真夏だったこともあり脱水症状になってしまった。あまりの辛さにもう辞めようかとも考えたが、厄年に立ち向かうために始めたレース、なんとか3年は続けようと自分を奮い立たせたそうだ。筑波を走っていた時、1分4秒フラットというラップライムを出した。次は1分3秒台に…と考えた矢先、最終コーナーでウォールに激突しマシンを大破させたこともある。そこからは恐怖との戦いだった。あと5mブレーキングを遅くしよう。そう考えても体がいうことをきかない。クラッシュという悪夢に勝つためにとことん走り込んだ。

「音楽はね、自分にあらゆる対応力が備わっていればどうにでもできる。若いうちはとにかくがむしゃらにプレイしている姿が美しく見えることもある。レースも速く走るためには対応力と分析力が必要。でも最初の頃はがむしゃらな気持ちだけで走っていましたね。レースを始めたのは40歳を過ぎてからですが、この3年間は僕のクルマ人生にとっての青春時代。ほかの何ものにもかえがたい無形の栄養になっています」

ノーマルモデルよりグッと下げられた車高と大きなウイングが特徴的なRS。エンジンは3.8リットルで最高出力は300ps。「ラジオも付いていないから、このクルマに乗っていると外の出来事がまったくわからない。でもたまには世間と隔離されるのも悪くないですよ」。ナンバーを取得するために3点式のシートベルトは後から取り付けたそうだ

後藤さんは95年以降も出場するつもりでマシンを手に入れていたが不景気などの影響でレースが中止に。しかしマシンは手放さず、ナンバーを取得して乗ることにした。それがこの993だ。レースには出ていないがサーキットを走っていた頃の思い出やダメな自分の姿、あらゆる記憶が全部詰まっている。これまでに手放そうと思ったことは一度もないし、その気持ちは今後も変わらないという。

「速くて居住性があって荷物がたくさん詰める…一台ですべてを満たそうとすると実用的でつまらないものになってしまうでしょう。もし楽しみを求めたいなら、ほかを犠牲にしても自分の欲望に向かって突き進むことが大事。楽器とクルマは似ている部分が多いですね。僕が85年頃から使っているベースのひとつであるスペクターは、バラードを弾こうとすると音が立ちすぎてしまう。でもそれしかないなら、弾き方で音がなじむように努力をする。クルマだって不都合があってもなんとかする方法を考えると同時に、不都合を楽しむ術を身につければいいんですよ」

PROFILE
ごとう・つぐとし/1952年2月5日生まれ(56歳)。学生時代より数々のミュージシャンとセッションし、その後は高橋幸宏氏に誘われサディスティック・ミカ・バンドに参加。’80年ごろからは作曲家、アレンジャーとしても活動。沢田研二の「TOKIO」では日本レコード大賞編曲賞を受賞。ほかにもとんねるず、工藤静香、中島みゆきなどに楽曲を提供し大ヒット。自身も藤井尚之、斎藤ノブらと結成した“Non Chords”、女性SAXプレイヤーklammyと結成したユニット“WAIP”など積極的な活動を展開している。現在WAIPのアルバム『visual range』、自身がストーリーと絵を描き下ろした絵本『BonBonとBenBen』が発売中
【Official HP】http://www.bass-on-bass.com/

『visual range』
(TUTINOK)

『BonBonとBenBen』
(東明社)
文・高橋 満 写真・小池ヒロミチ
text / TAKAHASHI Mitsuru photos / KOIKE Hiromichi