国産スーパースポーツに負けず劣らない
実質的な速さを身につけた
「走る宝石」とも、「2輪界のフェラーリ」とも称される、MVアグスタF4。細部にいたる造形にまで美を追求し、4本出しのマフラーが奏でるエグゾーストノートは官能的で、まさにフェラーリに匹敵する芸術的な雰囲気を持ったモデルだ。
レーシーな乗り味を、そのまま公道に持ち込んだという点でも、F4とフェラーリはよく似ている。一言で言えばハードでスパルタン。「レーシングマシンを街中で走らせてみたい」という憧れを、そのまま形にしている。独特の扱いにくさや気難しさがあって、日常的な足として毎日走らせる乗り物ではないが、いったん走り始めれば、一気に非日常的な世界に連れて行ってくれる。そんな楽しみができるのもF4とフェラーリの共通するところだろう。
同時にF4は「性能では国産車に敵わない」という負の称号を付与されていた。フェラーリがどう頑張ってもサーキットアタックでは日産GT-Rに敵わないように、F4も国産4気筒モデルの後塵を浴び続けてきたが、そんなことすら意に介さないほど、F4にもフェラーリにも独自の魅力があった。
そしてF4は、ついに逆襲を開始した。熟成を重ねたF4は、今やサーキットテストでも国産スーパースポーツモデルに匹敵するタイムを叩き出す。独特な扱いにくさは徐々に影をひそめ、実質的な速さを身にまとい始めたのだ。さらにF4
1000R 312は、エンジンを大幅に見直してパフォーマンスアップ。「312」の名称は、最高速312km/hから付けられたというから、その本気度が窺える。
フェラーリも、599で高級志向からパフォーマンス志向へとシフトした。「性能もステイタスのうち」という考え方がF4と共通しているようで非常に興味深い。MVアグスタ・ジャパンによると同社とフェラーリの間に技術提携などの関係は無いという。だが、そこに共通性を見いだしてしまうのは、両社のプロダクトにイタリアの“本質”があるからに違いない。
MV AGUSTA F4 1000 R312
4本のサイレンサーが美しく並ぶ“オルガンパイプ”と呼ばれるマフラーと、サラブレッドのように引き締まったボディが眩しいイタリアンバイクの最高峰モデル。世界一美しいと称されるクロームモリブデン鋼管とアルミニウム製のスイングアームサポートフレームによるコンポジット構造のフレームは、全て職人の手によるハンドメイドで生産されている。このクラスでトラス・パイプフレームを採用するのはMVアグスタだけだ
コンペティションマシンの世界では、“革命的”な技術の投入ではなく、小さな改良を一つ一つ積み上げていくのが定石である。このR312もフレームはMVアグスタ伝統のクロームモリブデン鋼管による熟成された格子構造を採用する。このフレームはアグスタのフレーム専用工場でTIG溶接を用いて手作りされる。メーター回りのレイアウトは他のF4シリーズと同様、右に1万7000回転まで刻まれたタコメーター、左にスピード表示を含むマルチファンクションディスプレイが置かれる
F4シリーズに共通するアイコンともなっている4本のサイレンサーは、その形状と調律されたエグゾーストサウンドから、イタリア語で“CANNE D’ORGANO”、オルガンパイプとも呼ばれている